Jazz-Ken(ジャズ研)

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Tord Gustavsen

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Tord Gustavsen。
最初に知ったのは新宿のディスクユニオンに行ったとき。もう20年近く前になるかもしれない。
当時は早朝からお昼まで新宿伊勢丹のビル掃除のアルバイトをしていて、帰り道、三日にあけずこの店に寄っていた。しょっちゅう見ている同じCDの並んでる棚でも、行くたびに何か発見することもあるし、店内でかかってるCDに興味を持ち、新規開拓につながることもある。
その日もバイトで疲れた体をおし、半ばそこに行くことが義務であるかのようにいそいそとお店に向かった。で、お店に入ってふと気がつくと、そのピアノがかかっていた。
鮮烈な印象だった。今まで聴いたことのないような哀愁(という言葉はなんだか陳腐だが)のあるメロディ。
特に印象的だったのが、そのフレイズの揺らぎである。儚い夢のような、かすかなささやきのようなメロディが繊細極まるゆらぎをともなって耳に届き、強烈な印象を残した。
すぐさま、レジ横に置いてある「Now Playing」のジャケットを確認し、その場ですぐ買ったのがこのTord Gustavsen。
家に帰って、何度も何度も聴き返した。曲がどうこう、アドリブがどうこう、というのはどうでもよかった。ただ、この独特のフレイジング、他の誰にも似ていない微妙なニュアンスにひたすら酔いしれていた気がする。
そのしばらくあと、彼は自己のトリオで来日した。
新宿ピットインでの公演を見てきた。思いのほか激しい面も見せてくれて、全体としてはすばらしかったが、CDから感じたあの独特の雰囲気は正直あまり感じられなかった。
彼自身は、どこか居心地悪そうにしているようにも感じられた。
(続く)